胸に響かせる、胸を鳴らす、胸にあてる、など指導者によっていろいろな言い方がありますが、特に初期段階としては胸に響かせる訓練は全トレーニングの中である程度のレベルで加えた方がいいです。
声を響かせることができるのは「鼻腔」「口腔」「胸腔」の3か所。鼻腔や副鼻腔という場所を響かせるように歌うのはよくレッスンで登場しますし、口の空間、軟口蓋を上げる、上あごを高くなど口腔のアドバイスも多いです。しかし、胸腔のアドバイスというのは実際は少ないのが現状です。
しかし、胸の響きこそが声の基礎です。ジャンルということではなく、その人がもっている声の基礎部分です。台詞、しゃべる声の基礎もそこにあります。本来は声楽もそこがとても重要でした。
今は特に日本では胸を響かせるということはあまりレッスンでは言わなくなってきましたが、歌に歌詞があるのではなく、歌詞にメロディがついたと考えるとわかりやすいでしょうか。たとえばマリア・カラス、ミレッラ・フレーニなど伝説的なソプラノ歌手達のインタビューなどの動画をみてください。その話している声は喉の下から声がでています。頭からでているような話し方ではありません。
あくまでも声の出発点は喉の下にあります。最初から頭や副鼻腔からだすのではなく、基礎力の強い胸の音を基礎として、副鼻腔まで声が回っているというのが実際の声楽の声の共鳴だと私は考えています。
最後に、1700~1800年代の声楽の世界にはマルテッラートという技法がありました。同一音の連打音です。これは胸に声をあててトレーニングしていました。語源はmartello。ハンマーという意味です。胸に鳴らすことがこの時代は技術として明確にありました。
ジャンルをわけるのではなく、声の基礎力の向上としては、声の基礎力を高めたいすべての人がトレーニングしていい場所だと思います。