ヴォイトレレッスンの日々  

ヴォイトレに関わっている方とブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナー、スタッフの毎日をとりあげていきます。

夏目漱石とドストエフスキー

音読教材として、夏目漱石を使っています。理想的な日本語とされているし、古風な表現がおもしろいからです。レッスンでは15分くらい音読してもらい、聞き取りにくかったところ、わかりにくかったところを指摘していきます。量をこなす教材として、どんどん進めてもらっています。コツは、細かいことを気にせず、でもできるだけ間違わずに初見で、大き目な声ではっきりと音読していくことです。

さて、夏目漱石に「こころ」という小説があります。一部分が高校の教科書にも取り上げられているため、ご存じの人も多いと思います。「わたし」は実の父の死と、尊敬する先生の自殺という二つの死にほぼ同時に直面することになります。この場面の音読を聴いていて、思い当たったことがあります。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」です。カラマーゾフは主人公の名字で、一家の父親の殺人事件がテーマです。そして主人公の一人である三男のアリョーシャは事件の直前まで修道院で修業をしていて、心から尊敬している精神的な父というべきゾシマ長老の(老衰による)死にも直面します。なんとそっくりではありませんか。「こころ」の主人公は、実の父の自然死と、精神的な父の自殺。「カラマーゾフ」の主人公は、実の父の他殺と、精神的な父の自然死。しかも、「こころ」の先生は、若いころの恋愛事件で友人を失い、「カラマーゾフ」の長老も、若いころ恋愛事件で決闘事件を起こしています。どちらも、現在の「倫理的な」立場や振る舞いからするとかなり唐突な印象を受けます。

私は専門家ではないため、ドストエフスキー夏目漱石に影響を与えているというのはもしかしたら常識なのかもしれませんが(たぶん逆ではないでしょうから)、たまたまの一致かもしれませんが、意外な気がしました。ドストエフスキーは、実の父を殺されており、自身も死刑囚となったこともあり、かなりドラマチックな人生、賭博癖、てんかん発作、ロリコン夏目漱石は、癇癪もちだったとのことではありますが、まじめな元大学教授、相撲好き、落語好き、奥さん一筋の愛すべきおじさん。かなり違うタイプの作家だと思っていたからです。

この二つの本が気になるのも、私が年を取ったということでしょうか。(♭∴)