ヴォイトレレッスンの日々  

ヴォイトレに関わっている方とブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナー、スタッフの毎日をとりあげていきます。

「九十歳のラブレター」加藤秀俊

愛妻家とはこの人のことを言うのだ、と思った。奥様へのまなざしが、尊敬と愛情に満ちている。それはアメリカで新婚生活をスタートさせて以来、九十歳になり、奥様を病で失った今も、続いている。奥様は、昭和29年、横浜から貨客船で単身、二週間かけてロサンゼルスに、そこから飛行機を乗り継いでボストンへお嫁に来た、たくましい女性だ。お二人は支えあって仲良く、生きてこられた。自分はこのような静かな温かさは、あまりなじみがないので、驚きと憧れを持って、一気に読んだ。九十歳の著者が正直に素直に心の内を記し、誇張や虚飾の匂いが少しもないことが、読みやすく、読後感が良い。歳を重ねた方のお話には、取り繕いや美化が多いと感じているけれど、この本にはそれは全く感じられなかった。それから、意外な収穫があった。ジャズの「I c'ant give you anything but love」の歌詞に、「ウールワースにはダイヤモンドのブレスレットは売ってない」というくだりがあり、調べたら、ウールワースはその当時のスーパーとのことだったが、この本によると、著者夫妻のシカゴ在住時、ウールワースという日用品百貨店チェーンがあり、店頭にワン・ダラー・ブラウスという安いブラウスが陳列されてよく売れていた、という。ウールワースの雰囲気が分かって良かった。その一ドルブラウスは日本製だったという。1950年代の日本は安手の雑貨や衣料品の輸出で外貨を稼いでいた。こんな時代もあったのだ! と、これもびっくりした。(KR)