ヴォイトレレッスンの日々  

ヴォイトレに関わっている方とブレスヴォイストレーニング研究所のトレーナー、スタッフの毎日をとりあげていきます。

パワーなし

型を通じて型の上に出ていくのが達人、そういう達人の出たあと、型にはまって出られなくなると、型は、かつての天才を思い出させる装置として使われるようになっていきます。

美空ひばりトリビュートアルバム」、トリビュートを出すことはよいことです。美空ひばりを知らない人に何を与えられるか、その曲、詞はどこまで通じるのか、それをみることができます。ベテランの演歌歌手でも、ひばりの型にはまる(ものまねになり、足をすくわれる)か、そこを切り離し自分の歌にするかです。型を最大に活かして自分と今の世界を表現できている人、いや、試みようとしている人さえほとんどいないようです。

 デビュー時の才能や資質が、プロになったあとに消費されているだけで、さらに高めて最大限に発揮されるようにプロデュースもされてこなかったのです。日本人のお客さんに純粋に対応していった結果、日本の歌い手はプリミティブなパワーを失っていったともいえます。世界で通じる歌唱力で、一流のアーティストにも認められた美空ひばりが、世界に知られていない、ヒットもしなかったのは、時代のせいばかりとは言えないと思うのです。これは「王や長嶋が大リーグに入っていたら」などと似たような愚問かもしれません。

 日本の芸は、聴き込めば入ってくるもので、パワーで押して持ち上げてくるものではないのでしょう。歌詞が中心で、メロディののりに母音のビブラートです。生活のなかで培われた強い言語のリズムそのままに、パワーで盛り上がっていく欧米やアフリカとは違います。アジアなども含めても違うように思います。

 日本人は、和、共感、謙虚さを尊びます。それは、戦いや競争の次にくる世界を創れるのでしょうか。創っていくのに一歩引いていく、そういうことでしょうか。