本作の作家・つかこうへいはこの作品で岸田國士戯曲賞を受賞し、 演劇界ではつかこうへいが生まれる前の時代を「つか前」、 生まれた後の時代を「つか後」 という言葉が生まれたくらい日本の演劇界に衝撃を与えた偉人でし た。
今でも演劇サイトを検索すれば日本のどこかで必ずこの作品が上演 されています。
物語はある意味で単純。
「熱海でしがない職工が恋人を殺してしまった。
ありきたりな事件に業を煮やした東京警視庁捜査一課の部長刑事・ 木村伝兵衛は犯人・ 大山金太郎を自分好みの立派な殺人事件の犯人に仕立て上げていく …」
という感じではあるのですが、
実際芝居を観劇すると、そんなあらすじは頭から吹き飛び、 あまりの役者の熱量に感動という弾丸で胸を撃ち抜かれ、 舞台で何が起きているかがわからない位に我を忘れ、 劇的で情熱的で感動的で悲しく、 憤りと驚きと興奮のジェットコースターに乗せられいつの間にか終 幕するという、一体目の前で何が起きたかが全く分からないが、 自分の目からこぼれ落ちる涙はいつまでも止まらない…、 そんな人の心の震えさせるような芝居なのです。
一見台本を読むだけでは全くその様な事は想像できないのですが、 上演された作品を見て始めて作品の持つ熱量や情念、 人間の持つ苦しみや痛み、優しさや厳しさ、 寂しさが洪水のように観ているの者に押し寄せてくるのを感じる事 が出来るのです。
自分の芝居の原点のようなものが、この熱海殺人事件なのです。(AA)